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3 相続分
(5) 

寄与分


(イ)寄与分とは

被相続人と共同して農業や商店の経営に従事してきた相続人のように、特定の相続人が、被相続人の財産の維持または形成に特別の寄与、貢献した場合に、その相続人を、寄与や貢献のない他の相続人と同等に取り扱い、法定相続分どおりに分配するのは、公平を失することになります。
寄与分は、このような場合に、寄与者に対して寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度です。
寄与分といえるためには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持又は増加があること、寄与行為が特別の寄与といえることが必要です。

(ロ) 寄与分の態様

民法では、寄与の態様として、被相続人の事業に関する労務の提供、被相続人の事業に関する財産上の給付、被相続人の療養看護、その他の方法を挙げています。
(a)家業従事型
1)家業従事型とは、
相続人が被相続人の事業に従事することで、相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。
事業の典型例は農業や商工業ですが、医師、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士などの業務を含むとされています。
家業従事が特別の寄与に該当するといえるためには、無償性、継続性、専従性、被相続人との身分関係等が問題となります。
2) 無償性
特別の寄与といえるためには寄与行為は原則として無償でなければならないとされています。
もっとも、専従、継続的な寄与行為の場合、寄与行為に対する給付が全くないといった事例は稀であり、何らかの対価的な給付がなされているのが通常です。
この場合、被相続人が、第三者を使用、雇用した場合に行っていたであろう支出と、相続人に対する現実の給付との間に差額がないときには無償性がないものと評価します。
一方、差額がある場合には、その差額をもって寄与分算定の基準とすることになると考えられています。
3) 継続性
家業従事者としてなされた寄与行為が特別の寄与といえるためには、相当長期間にわたって継続してなされることが必要とされています。
4) 専従性
相続人による家業についての貢献が特別の寄与といえるためには、寄与行為が臨時や片手間になされるのでは足りず、本来自分が従事すべき仕事と同様に携わることが必要とされています。
5) 被相続人との身分関係
特別の寄与とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献をいいます。
したがって、その程度は、被相続人との具体的身分関係によって差異が生ずるものであり、配偶者、子、兄弟姉妹、親族のいずれであるか等によって、同様の寄与行為がある場合でも寄与分の認定上、差が出ることになります。
通常期待される貢献の程度については、一般に配偶者、親子、兄弟姉妹、親族の順序で小さくなり、通常の貢献の程度を超えた場合に初めて特別の寄与として認められることになります。
(b)金銭等出資型
金銭等出資型とは、相続人が被相続人に対し、財産上の給付を行い、又は被相続人の借金を返すなどして、相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。
共稼ぎの夫婦の一方である夫が夫名義で不動産を取得するに際し、妻が自己の得た収入を提供する場合、相続人が被相続人に対し、自己所有の不動産を贈与する場合、相続人が被相続人に対し、自己所有の不動産を無償で使用させる場合、相続人が被相続人に対し、被相続人の家屋の新築、新規事業の開始、借金返済などのため、金銭を贈与する場合などが挙げられます。
この場合、寄与分を肯定するためには、無償性を要するほか金銭等出資の効果が相続開始時に残存していることが必要です。
(c)療養看護型
療養看護型とは、相続人が被相続人の療養看護を行ない、付添い看護の費用の支出を免れさせるなどして、相続財産の維持に寄与した場合をいます。
実際の療養看護が特別の寄与に該当するといえるためには、家業従事型と同様、被相続人との身分関係上一般的に期待される以上の寄与行為であるほか、持続性、専従性が必要となります。
(d)扶養型
扶養型とは、相続人が被相続人を扶養して、その生活費を賄い、相続財産の維持に寄与する場合をいいます。
ただ、夫婦は互いに協力扶助の義務を負っていますし、また直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負っていますから、扶養行為が認められる場合でも、それを超えた特別の寄与にあたるかどうかの判断が必要になります。
扶養行為につき寄与分を肯定するためには、扶養義務の有無及び分担義務の限度、相続人の受けた利益が問題となります。
(e)財産管理型
財産管理型とは、相続人が被相続人の財産の管理を行ない、管理費用の支出を免れさせるなどして相続財産の維持に寄与した場合をいいます。
不動産の賃貸、管理、修繕、保険料や公租公課の支払い等の行為が考えられます。
この場合は、家業従事型や療養看護型のような専従性、継続性といった要件は考慮する必要はなく、基本的には金銭出資型に準じて特別の寄与といえるかどうかを判断することになります。

(ハ)寄与分の算定

具体的な寄与分の算定については、民法には寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮するという抽象的な規定があるに止まり、その実際の適用は、家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられています。
寄与分の具体的算定に当たっては、相続財産の維持又は増加についてなされた相続人の寄与の程度を客観的に認定しただけでは足りず、これに加えて相続財産の額等一切の事情を考慮し、裁量的にその額あるいは割合を定めることになります。
以下では、具体的な寄与行為の類型ごとに実務上行なわれている具体的な寄与分の算定方法の1事例を紹介することにします(ひとつのめやすであり、絶対的基準ではありません)。
(a)家業従事型
(計算式)
寄与分額=寄与相続人の受けるべき相続開始時の年間給付額 × (1-生活費控除割合) ×寄与年数
(b)金銭等出資型
(計算式)
金銭等出資型
(c)療養看護型
(計算式)
a.実際の療養看護
寄与分額=付添婦の日当額×療養看護日数×裁量的割合
b.費用負担
寄与分額=負担費用額
(d)扶養型
(計算式)
a.現実の引取り扶養
寄与分額=(現実に負担した額又は生活保護基準による額) ×期間× (1-寄与相続人の法定相続分割合)
b.扶養料の負担
寄与分額=負担扶養料×期間 × (1―寄与相続人の法定相続分割合)
(e)財産管理型
(計算式)
a.不動産の賃貸管理、占有者の排除、売買契約締結についての関与
寄与分額= (第三者に委任した場合の報酬額) × (裁量的割合)
b.建物の火災保険料、修繕費、不動産の公租公課の負担
寄与分額=現実に負担した額

(ニ)具体的相続分の算定方法

共同相続人中に寄与者がいる場合、具体的相続分の算定は以下のとおりとなります。
相続財産の価額6000万円、相続人は妻A、子B、Cの3名で、Bに寄与分600万円が定められた場合
具体的相続分の算定方法

(ホ)寄与分と特別受益の関係

寄与分を主張する相続人が、生前贈与や遺贈で多額の財産を贈与されている場合、また、特別受益のある相続人が被相続人の財産の維持や増加に貢献している場合があります。
(a)寄与者と特別受益者が同一人である場合
特別受益の持戻し制度も寄与分制度も、ともに相続人間の公平を図る点で共通ですし、遺産分割の際に特別受益財産や寄与を考慮して調整する点でも共通です。
したがって、同じ相続人が寄与に対する実質的な対価としてすでに生前贈与や遺贈を受けている場合には、持戻免除の意思表示があったものとみて、生前贈与を持戻しの対象とせず、一方、その限度で寄与分の請求を認めないことになります。
なお、特定の相続人の寄与分に配慮して遺贈を行った場合であっても、遺留分を侵害された他の相続人は寄与相続人に対して遺留分減殺請求をすることは可能です。 
その際、寄与相続人は遺留分減殺請求に対して寄与分を主張して取り戻される額を減少させることはできないとされています。
(b)寄与者と特別受益者が同一人でない場合
寄与者以外の者に多額の生前贈与や遺贈がなされたことにより寄与分の額を定める範囲が非常に僅かになってしまったような場合であっても、寄与分が侵害されたとして生前贈与や遺贈の一部を取り戻すことはできないと考えられています。
寄与分はあくまでも被相続人が死亡時に残した積極財産について認められるに過ぎないものだからです。
同様に、生前贈与や遺贈が寄与相続人以外の者になされている場合、寄与者は、特別受益者に対して寄与分を主張し、その特別受益財産の返還を求めたりすることはできません。

(ヘ)寄与分と遺言の関係

(a)寄与者を定める遺言の効力
被相続人が、特定の相続人に対し、「寄与分として遺産の3分の2を与える」 あるいは 「寄与分として自宅を与える」 というような遺言を行って、寄与分を定めることはできません。
寄与分は、共同相続人の協議、家庭裁判所の調停または審判で定めることとされ、遺言によって定めるものとされていないからです。同様に、寄与分を一切与えないとする遺言も効力を有しません。
ただし、寄与分の指定としての効力はないにしても、先に述べた遺言が、遺言の解釈によって、遺贈ないし相続分の指定として有効となるケースもあります。
(b)遺言の寄与分に及ぼす影響
1)遺贈
イ.特定遺贈
特定遺贈によって全ての遺産が特定人に割り付けられた場合には、遺産分割が行なわれる余地はありませんから、寄与分の問題は生じません。寄与分は遺産分割を行なわれることをその前提とするからです。
一方、遺産の一部について特定遺贈がなされた場合、寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができないため、寄与分は遺産分割の対象となる残部の遺産の範囲内でのみ認められます。
ロ.包括遺贈
包括遺贈のうち、1名の受贈者に対して全財産の包括遺贈がなされた場合には、遺産分割は行なわれませんから、寄与分の問題は発生しません。
遺産の一部について包括遺贈がなされた場合には、特定遺贈の場合と同様に残部の遺産について遺産分割がなされ、寄与分は遺産分割の対象となる残部の遺産の範囲内でのみ認められます。
一方、全遺産が複数の受遺者に分数的割合で包括遺贈された場合、受遺者間で遺産分割が行なわれて個々の遺産の帰属が確定されることになりますが、寄与分の主張は許されないと解されています。
2)相続分の指定
相続分の指定がなされたとしても、個々の遺産の最終的な帰属は確定しませんから、遺産分割によってこれを確定させる必要があります。
遺産分割においては、指定相続分は、寄与分と特別受益によって修正され、その結果算定された具体的相続分に従って遺産の配分がなさるため、相続分の指定がなされた場合には、寄与分の主張をすることができます。
3)「相続させる」 との文言による処分
特定の遺産を特定の相続人に 「相続させる」 との遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、その遺産を特定の相続人に単独取得させる遺産分割の方法が指定されたものであるとされています。
そして、「相続させる」遺言があった場合には、対象となった遺産は、原則として何らの行為を要せずに被相続人の死亡の時に直ちに相続によって承継されます (最判平3.4.19民集45巻4号477頁)。
よって「相続させる」遺言によって、全遺産が割り付けられた場合には、遺産分割の余地はなく、寄与分の問題は生じません。
一部の遺産について 「相続させる」 旨の遺言がなされた場合には、残部の遺産について遺産分割が行なわれますから、その際に寄与分の主張をすることができます。

(ト)寄与分と遺留分の関係

(a)寄与者に対する遺留分減殺請求・・・共同相続人の内部関係
1)寄与者への寄与分付与の場合
調停ないし審判によって、共同相続人の1人に高い割合の寄与分が認められると、その寄与分の額が他の共同相続人の遺留分に食い込んでしまう事態が生じます。
しかしこの場合でも、認められた寄与分に対して、他の相続人が遺留分減殺請求をすることはできないと解されています。
2)寄与者への遺贈の場合
被相続人が寄与分を考慮して、予め寄与者に多くの遺贈をして、他の相続人の遺留分が侵害された場合に、遺留分を侵害された共同相続人は、遺贈について減殺請求をすることができます。
この請求に対して、寄与者が寄与分を抗弁として主張することはできないと解されています。
その理由として、遺留分算定の基礎財産 (相続債務を控除) と寄与分算定の基礎財産 (相続債務は非控除) とが異なるものであり、遺留分減殺請求権は通常の訴訟によって行使される権利であるのに対し、寄与分は家庭裁判所の調停、審判により決定される権利であること、寄与分をもって遺留分減殺請求に対抗することが法技術的に困難といえるからです。
したがって、被相続人が寄与分を考慮して寄与者に多くの遺贈をしても、他の相続人の遺留分を侵害するときは減殺請求を受けることになります。
(b)寄与者の第三者に対する遺留分減殺請求・・・対第三者関係
第三者に対し、遺留分を侵害する遺贈等があった場合、相続人中に寄与者がいたとしても、寄与分の有無などは遺留分減殺請求の範囲等に影響を及ぼすものではないと解されています。