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5 相続の承認、相続の放棄

(4) 相続放棄

(イ)相続放棄とは

相続の放棄とは、相続人資格を有するものの、相続の効果が自己に帰属することを拒否する行為です。
どのような相続人であっても相続放棄ができ、遺言によって放棄を禁止することはできません。相続の放棄が道徳的観念に反していても、また債務のみが相続の対象であっても、相続の放棄は制限されません。

(ロ)放棄の方式

(a)家庭裁判所への申述
相続の放棄をしようとする者は、3か月間の熟慮期間中にその旨を家庭裁判所に申し出ます。
具体的には、被相続人の住所地又は相続開始地を管轄する家庭裁判所に対し、申述者、被相続人の氏名・住所、被相続人との続柄、相続開始があったことを知った年月日および相続を放棄する旨を記載した書面を提出する方法によって行います。
限定承認の場合とちがい、財産目録を調整する必要はありません。
家庭裁判所に対する申述の方式によらず、他人との間で放棄の合意をしたり、他の相続人に放棄通知をするなどしても相続放棄の効果は発生しません (大決大正6.11.9民録23輯1701頁など)。
また相続開始前の相続の放棄は認められていません。
(b)利益相反行為
相続人が未成年者の場合に、親権者が本人に代わって相続放棄をすることになりますが、親権者も相続人資格を有するときには利益相反行為が問題となります。
判例は、後見人のケースにおいて、相続放棄により結果として他の相続人の相続分が増加することになるから、相続の放棄をする者と放棄によって相続分が増加する者とは利益が相反する関係にあると判示しています。ただし例外的に、共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において、後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は、後見人自らが相続の放棄をした後にされたか、又はこれと同時にされたときは、利益相反行為にあたらないとしています (最判昭53.2.24)。
この判例は、親権者についても同様に解すべきと考えられており、親権者が相続人資格を有するときは、自らが相続放棄していない限り子を代理して相続放棄することができず、その子のために家庭裁判所に対し特別代理人の選任を請求する必要があります。
(c)受理の審判
相続の放棄は、審判によって成立し、相続開始時に遡って効力が発生します。
家庭裁判所は、審理の結果、これを認容するのが相当であると判断すれば受理の審判をし、不相当と判断すれば申述を却下する審判をします。
家庭裁判所が放棄の判断をする際には、申述書の記載についての形式的審査ほか、相続人による申述であり 放棄が相続人の真意に基づくものであること、法定期間内の申述であること、等が確認されます。
法定単純承認の有無、詐欺その他取消原因の有無等のいわゆる実質的要件の存否については、申述書の内容、申述人の審問の結果あるいは家庭裁判所調査官による調査の結果等から、実質的要件を欠いていることがきわめて明白である場合に限って、申述を却下するのが相当とされています (仙台高決平1.9.1家月42巻1号108頁など) 。
相続放棄却下の審判に対しては、放棄者又は利害関係人は即時抗告することができますが、受理の審判に対しては、即時抗告はできません。

(ハ)放棄の効果

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
例えば相続人が子二人と配偶者の場合、法定相続分は子が各自四分の一、配偶者が二分の一ですが、子の一人が相続を放棄したならば、子一人と配偶者が相続人となり、それぞれ法定相続分は二分の一となります。
相続放棄の効果は絶対的であり、相続開始時に遡って相続しなかったことになるため、登記の有無を問わず、何人に対してもその効力を主張できます。
なお、相続開始後、相続放棄の申述の受理までの間に、相続人の1人の申請により相続人全員のために相続登記がされる場合があります。このような場合において、その後相続人中の1人の相続放棄の申述が受理されたときは、持分の移転の登記をすべきとされています。また、共同相続登記後に第1順位の相続人が放棄したときは、抹消の登記をするのではなく、第2順位の相続人のために所有権移転登記をすることとされています。
いずれも登記原因は 「相続の放棄」 となります。相続放棄をした結果、他の相続人が不動産所有権を取得の登記をする場合、添付書類として家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書を添付する必要があります。