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7 相続人の不存在
(2) 

特別縁故者に対する財産分与


(イ)財産分与とは

相続人の不存在が確定した場合、家庭裁判所が相当と認めるときに、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者からの請求によって、残存している相続財産の全部または一部が与えられます。
これが特別縁故者に対する財産分与の制度で、遺言の不備を補充して、被相続人の意思の実現を図るためのものです。

(ロ)特別縁故者とは

特別縁故者として、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者が規定されています。
しかし、それは例示にとどまり、その間の順位に優劣はなく、家庭裁判所は、被相続人の意思を尊重し、被相続人と縁故者の自然的血族関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的物質的に恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度その他諸般の事情を斟酌して分与の拒否及びその程度を決すべきであるとされます(大阪高決昭44.12.24家月22巻6号59頁)。
1)被相続人と生計を同じくしていた者
主として内縁の妻のように、密接な生活関係があるにもかかわらず、民法上相続権の認められていない者を想定したものとされています。したがって、これにあたるとされた者は、ほとんどが親族ないし事実上親族と同視できる者であって、それ以外の事例は少ないといえます。
判例上は、被相続人と長年辛苦を共にしまさに被相続人の特別功労者というべき内縁の妻、30年以上にわたり被相続人と生活を共にし被相続人死亡の際には唯一の身寄りとして葬儀を営み菩提を弔った内縁の妻、子供は生まれず、婚姻届も出さなかったものの約24年間被相続人と夫婦として同棲生活をしてきた内縁の妻などが、特別縁故者として認められています (順に、山口家審昭49.12.27家月27巻12号61頁、東京家審昭38.10.7家月16巻3号123頁、岡山家審昭46.12.1家月25巻2号99頁)。
その他、事実上の養子、おじ、おば、継親子、亡子の妻、亡継子の子、未認知の非嫡出子なども、被相続人との生計を同じくしている者として、特別縁故者とみなされる場合があります。
2)被相続人の療養看護に努めた者
被相続人の感謝の意思を推定し、遺言が可能であればその者に遺言したであろうと考えられることから、特別縁故者として例示されています。
血縁関係のある者で認められた事例として、結婚の機会に恵まれず、兄の死後は身寄りがなく、恩給と家屋の賃貸料とで生計を維持してきた被相続人に対して、その老後の相談相手となるなどして世話をし、死亡後は、葬祭一切を執行し、現在まで祭祀を主宰し、今後も続ける意思のある5親等の血族などがあります (鹿児島家審昭38.11.2家月16巻4号158頁)。
血縁関係のない者で認められた事例として、老齢のために病気で臥床する被相続人のため、食事や洗濯の世話をしたり、入院中もたびたび訪れて洗濯などの身の廻りの世話をしたり、2回の入院の前後には自宅で面倒をみたり、死亡時には葬儀の世話をしたりした民生委員、ともに警備員の勤務をしたことにより知り合い、被相続人が癌になった後は、被相続人を病院に入院させ、仕事に余暇のある限り入院中の被相続人を見舞うなどして約5か月間被相続人の療養看護に努め、死後はその供養をした職場の元同僚などがあります (前橋家審昭39.10.29民商56巻2号45頁、東京家審昭46.11.24判例集未掲載)。
看護婦や家政婦などは被相続人の療養看護にたずさわることが多いですが、これらの者は、対価として得た報酬以上に看護に尽くした特別な事情がある場合にのみ特別縁故者となります (神戸家審昭51.4.24判時822号17頁)。
3)その他被相続人と特別の縁故があった者
法定相続人以外の親族や友人などで被相続人による生活保障を受けてきた者が考えられます。
裁判例には、生計同一者、療養看護者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な交渉があり、相続財産の全部又は一部をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に被相続人と密接な関係があった者をいうと解すべきであると判示したものがあります (東京家審昭60.11.19家月38巻6号35頁)。

(ハ)その他の問題点

1)過去における一時期の縁故
被相続人の死亡時には、特別な縁故関係は認められないが、過去の一定の時点に特別縁故とみられる事情が存在するときにも特別の縁故があると考えられています。
2)死後縁故
被相続人の死亡後に特別な縁故関係が生じた者を特別縁故者と認めることができるか問題とされています。
大阪高裁昭45年6月17日決定 (家月22巻14号94頁) は、財産があって特に被相続人が生前金銭的に世話を受けた事実がない場合でも、幼少時より身近な親族としてたえず交際し、死亡後は葬儀、納骨、法要等遺族同様の世話を行ない、今後も被相続人の祭祀回向を怠らぬ意向である者もこれに含めた方が同条の立法の趣旨や故人の意思に合致すると推測され、異議を述べる者がない場合は特別縁故者に含めてよいと判示しています。
福島家裁昭46年3月18日審判 (家月24巻4号210頁) は、特別縁故者への財産分与制度が相続人のない相続財産を恩恵的に分与することと定めた点を考慮すると、被相続人の生存中特別の縁故がなかったとしてもその生存中死後のことを予測できたならば、これにつき遺贈、贈与等の配慮を払ったに違いないと思われる場合には、被相続人の死後における特別の縁故を認めることもできると判示しています。

(ニ)相当性

特別縁故者に対する財産分与が認められるためには、分与することが相当であることが必要です。
相当性の判断基準について、被相続人と特別縁故者との縁故関係の度合、特別縁故者の年齢、職業等や、相続財産の種類、数額、状況、所在等一切の事情を考慮して、分与すべき財産の種類、数額等を決定すべきと考えられています (高松高決昭48.12.18家月26巻5号88頁)。
申立人が複数いる場合の分与の基準について、明文の規定がありませんが、遺産分割と同様に、遺産に属する物又は権利の種類および性質、各特別縁故者の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮すべきとされています。

(ホ)財産分与の手続

(a)申立手続
申立権者は、特別縁故者です。財産分与は申立てをした特別縁故者に対してのみなされるので、第三者への分与を申立てることは認められません (通説、判例大阪家審昭43.11.18家月21巻12号171頁など)。
申立ては相続開始地の家庭裁判所に対し、特別縁故関係となる事情を具体的に記載した申立書、関係人の戸籍謄本等の添付書類、特別縁故関係を証明する資料などをあわせて提出します。
財産分与の請求は、相続人捜索の公告期間満了後3か月以内に行わなければならず、期間経過後の申立ては認められていません。
特別縁故者が財産分与の申立てをすることなく死亡した場合、その地位が相続されず、特別縁故者の相続人は財産分与の申し立てをできないと考えられています (判例大阪家審昭39.7.22家月16巻2号41頁)。
(b)審理手続
1)申立通知
財産分与の申立てがあったときは、家庭裁判所は、管理人に対しその旨を通知し、管理人は、財産分与が終了するまで、引き続き相続財産の管理を継続することになります。
2)併合審理
数人から財産分与の申立てがあったときは、審判手続は、併合しなければなりません。各申立人に対する審判が事実上抵触するのを回避し、その縁故関係を比較検討して財産分与について審判を行うようにするためです。
3)管理人の意見の聴取
家庭裁判所は財産分与の審判をするにあたり、相続財産管理人の意見を聴取しなければなりません。
管理人は、相続財産法人の代表者であり、その職務上相続財産の全体を把握し、特別縁故者の縁故関係を知り得る立場にあるため、財産分与に関する審判の参考として意見の聴取がなされます。
(c)財産分与の審判
財産分与の審判は、相続財産について、特別縁故者を権利者とする一種の形成的判決です。
財産分与の審判の確定によって、特別縁故者は相続財産を取得します。法的性質は相続財産法人からの無償贈与であると考えられています。
相続財産を構成する一切の財産が分与の対象となり、通常、相続財産の現物が分与されますが、家庭裁判所が、必要があると認めるときは、管理人に対して、相続財産の全部又は一部について、競売又は任意売却を命ずることができます。
申立人及び管理人は、分与の審判に対し、また申立人は却下の審判に対して、それぞれ即時抗告ができます。